



「県美の若冲のあのゾウさん」を手のひらで愛でる―。
静岡県立美術館の収蔵品から生まれたぬいぐるみ「じゅかぞう」。1月に販売がスタートすると初回生産分の500個が1ヶ月で完売し、現在3月中旬の入荷待ち状態と、密かなブームを起こしています。
モチーフとなった伊藤若冲の「樹花鳥獣図屏風」は、ルーブルの「モナ・リザ」やMoMAの「星月夜」のように、県立美術館のシンボルといえる大切な存在。
そんな作品の“ぬいぐるみ化”は、美術館スタッフにとって下手なことはできない一大プロジェクトでした。


あのゾウさんだ!

あのゾウさんだ!



なんとも言えないゆるさを纏いつつも「あのゾウさんだ!」と一目で分かる再現度。
“モフれる”じゅかぞう誕生の秘密や、そこに込められたこだわりについて、開発に携わった方々の話を聞かせてもらいました。
<目次>
- 樹花鳥獣図屏風って?
- 美術館スタッフのこだわり
- 名付け親は…
- 思い出を連れて帰ろう
- デザイナー目線の開発秘話
1.樹花鳥獣図屏風って?
静岡県立美術館
静岡県立美術館
図屏風の6分の1を占めようかという巨体、“羽二重餅”を思わせるたっぷりとした耳、こちらをまっすぐ見つめる目…。
何種類もの動物がじゃれ合うように描かれた樹花鳥獣図屏風(右隻)の中でも、ひときわ目を引くのが中央に佇む白い象です。
樹花鳥獣図屏風 江戸時代中期に活躍した画家・伊藤若冲(1716~1800年)の作品の一つ。全体を約1センチ四方の方眼で区切り、それを元に色を重ねる「枡目描き」による数少ない作品としても知られる。静岡県立美術館で開催中の「生誕140年記念 石崎光瑤」(同館、静岡新聞社・静岡放送主催)に合わせ、3月23日まで公開中。
じゅかぞうはこの象をモチーフに、3年ぶりの作品公開で展開するグッズとして企画されました。
2.美術館スタッフのこだわり
「ずっと前から美術館のオリジナルグッズを作りたかったんです」と語るのは、企画総務課の後藤健志さん(49)。
これまで商品開発のノウハウ不足などが壁になっていましたが、2024年7月に転機が訪れました。
館内にあるミュージアムショップの運営が、グッズ開発も手掛けるオークコーポレーション(東京都)に切り替わり、待望のプロジェクトが始動しました。
ポストカードやマグネットといった一般的なグッズと違い、立体物のぬいぐるみを作るためには、実際の作品に描かれていない象の側面や背面を想像して補う必要がありました。
監修を担った学芸課長の石上充代さん(50)は「バーンと膨らんだバルーンのようなハリのある体」にこだわったといいます。
10月の試作品段階では、体型や全体のバランスがややリアルな象を思わせるものだったとか。
ただ、グッズにしたいのはあくまで樹花鳥獣図屏風の象。鑑賞者の目を引くポイントを改めて突き詰め、前後の脚の間隔を詰めるなど修正を重ねて理想のイメージに近づけました。
3.名付け親は…
ぬいぐるみにマスコット的な名前を付けるのも美術館からのアイデアでした。工場への発注期日が迫る中、スタッフ総出で考えたとのこと。
動物たちでいっぱいの作品の雰囲気を海外の人にも感じ取ってもらいたいと、英字表記は「JUKA“ZOO”」に決まりました。
発売前の告知にSNSも反応。「若冲の象があそこまで正確な状態でぬいぐるみになってるのは初めて見た/ゲット必須/オンラインでも売って」など、「いつもの10倍ぐらいのリアクションがありました」と後藤さんはいいます。
4.思い出を連れて帰ろう
樹花鳥獣図屏風(右隻)は静岡立美術館の設立準備の中で1982年にコレクションされたもの。単に美しいだけでない、“お絵かきの楽しさ”にあふれるような作品が選ばれた背景には「開かれた美術館を目指す」という当初から続く理念がありました。
それから40年あまり―。
今、ミュージアムショップには大人に混ざって、ぬいぐるみを手にする子どもたちの姿があります。
「アートに触れた思い出を連れて帰って、またいつか足を運んでもらいたいんです」と石上さん。新しいシンボルとなりつつあるじゅかぞうにも、美術館で働く人たちの願いが詰まっています。
4.思い出を連れて帰ろう
樹花鳥獣図屏風(右隻)は静岡立美術館の設立準備の中で1982年にコレクションされたもの。単に美しいだけでない、“お絵かきの楽しさ”にあふれるような作品が選ばれた背景には「開かれた美術館を目指す」という当初から続く理念がありました。
それから40年あまり―。
今、ミュージアムショップには大人に混ざって、ぬいぐるみを手にする子どもたちの姿があります。「アートに触れた思い出を連れて帰って、またいつか足を運んでもらいたいんです」と石上さん。
新しいシンボルとなりつつあるじゅかぞうにも、美術館で働く人たちの願いが詰まっています。



もうちょっとだけ続くゾウ!

5.デザイナー目線の開発秘話
じゅかぞうのデザインを担当したのは、オークコーポレーション(東京都)で働くデザイナーの秋田晴菜さん(25)。柔らかい印象のぬいぐるみにしようと、最初はピンク色の生地を使ったものの「後ろから見たときにブタのようになってしまって。慌てて直しました」と失敗談を明かしてくれました。
図屏風のデザインを何度も見ながら「頭頂部を向けてるってことは、もっと顎を引いた姿勢なんじゃないか」「牙を内向きにした方がそれっぽい」など、気付いたことを随所に落とし込んでいく作業。
ペーパークラフトやカプセルトイなど、既に若冲作品を立体化した商品を参考にしながら、試作を重ねました。
「体型を描かれている通り忠実に立体化すると、若冲の作品から受ける可愛らしい印象からズレていってしまう」。モチーフを大切にする一方で、いかに親しみやすくデフォルメするかを特に気を付けたといいます。
じゅかぞうと樹花鳥獣図屏風を実際に見比べてみると、頭の大きさや鼻の太さなどが微妙な塩梅で変わっていることがよく分かります。
ぬいぐるみの表情を決定付ける目元の刺繍糸には様々なパターンを試して、紺とグレーの2色使いに落ち着きました。
秋田晴菜さん(ご本人の希望で似顔絵出演です)
秋田晴菜さん(ご本人の希望で似顔絵出演です)
ミュージアムグッズはハンカチやしおりなど、来館者の年齢層を意識したラインナップになる傾向があるそうです。だからこそ「素敵なぬいぐるみが出来れば、今まで来なかった人たちからも注目してもらえるはず」と思って取り組んだという秋田さん。
「市街地から少し離れた位置にある美術館だから、じゅかぞうがお出掛けの目的の一つになってくれたら嬉しい」と期待しています。